東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)205号 判決
一 原告の請求の原因及び主張の一ないし三は、当事者間に争いがない。
そこで本件審決に、これを取消すべき違法の事由があるかどうかについて考える。
二 審決(成立について争いのない甲第一号証)は、第一引用例(成立について争いのない甲第四号証の一)には、「同軸ケーブルの外部導体の内径にほぼ等しい内径を有する半接続子(32)(本件発明の円筒状部材に相当する)の円筒状の後方延長部(38)がケーブルの絶縁外装上に嵌合され、ケーブルの外部導体が該円筒状の後方延長部上に配設され、さらに当該部分に前記後方延長部よりも長さが大なフエルールが配設され、前記部分が圧着されてケーブルの外部導体が半接続子の円筒状の後方延長部とフエルールとの間で把持された同軸ケーブルの接続体が記載されている。」(第二丁表下から三行目ないし同裏八行目)と認定しているが、その添付図面2(別紙(〔編註〕省略)第二図面中)によれば、第一引用例においては、同軸ケーブルの外部導体の内径と、本件発明の円筒状部材に相当する半接続子(32)の円筒状の後方延長部(38)の内径とがほぼ等しいといえないものであることは明らかである。すなわち、右図面には、半接続子(32)の後方延長部(38)は誘電体差込部(50)の後方延長部(52)の厚さだけケーブルの外部導体の内径よりも大きな内径のものであることが示されている。
この点につき、被告は、第一引用例に示された同軸電気接続子は高周波の伝送に用いられるものであり、第一引用例は接続子内のインピーダンス不整合を最小限とし、電圧定在波比を低くすることを目的としており、この点で本件発明における同軸電気接続子と目的を共通にしているから、半接続子の円筒状の後方延長部の内径はケーブルの外部導体の内径と等しいことが最良であることは自明であつて、誘電体差込部(50)の後方延長部(52)は設計上インピーダンス不整合を最小限とする範囲、すなわち、半接続子の円筒状の後方延長部の内径とケーブルの外部導体の内径をほぼ等しい範囲にする程度のものであることは、当業者であれば容易に推認し得るところであるとの趣旨を主張する。
しかしながら、本件発明と第一引用例のものとが共に同軸電気接続子内のインピーダンス不整合を最小限とし電圧定在波比を低くすることを目的としているからといつて、そのことから直ちに第一引用例のものも半接続子の円筒状の後方延長部の内径とケーブルの外部導体の内径とをほぼ等しくしているものとすることはできない。第一引用例のものは、中央導体接続部について、従来技術として用いられていた、中央に配置された管状ピン部材をケーブル中央導体にはんだ付けすることに伴なうインピーダンス不整合及び不連続の欠点を除くために、圧着中央導体接続部を構成したものであり、(第一引用例第一頁右欄第一一行ないし第二頁左欄第九行参照。)、本件発明は、外部導体接続部について、外部導体の内径の変化に起因するインピーダンス不整合を防止するために、外部導体の内径にほぼ等しい内径を有する円筒状部材を配するとともに、その端部付近におけるフエルールを他の部分よりも強く圧着したものであることは明細書(成立について争いのない甲第二号証の二及び同第三号証)の記載から明らかであり、同じくインピーダンス不整合を最小限とし電圧定在波比を低くすることを目的としているからといつて、その対象とする部位も解決手段、方法も異なるのであつて、従つて、目的の点からのみ、第一引用例のものも本件発明と同じく半接続子の円筒状の後方延長部の内径とケーブルの外部導体の内径とをほぼ等しくしているということはできず、しかも第一引用例添付第2図には、その等しくないものが示されていることは前説明のとおりであるから、第一引用例のものが、半接続子の円筒状の後方延長部の内径とケーブルの外部導体の内径がほぼ等しい範囲のものであると認定することはできない。
三 しかしながら、審決の右第一引用例の記載の誤認の点を除き、審決は、本件発明(ただし特許請求の範囲第一番目に記載された発明)も第一引用例も共に円筒状部材(の後方延長部)上にケーブルの外部導体が配設され、さらに当該部分に円筒状部材(の後方延長部)よりも長さが大な展性材料製のフエルールが配設され、当該部分が圧着されてケーブルの外部導体が円筒状部材(の後方延長部)とフエルールとの間で把持されている点において一致し、本件発明がフエルールの第二部分により円筒状部材の端部に近接した部分で外部導体を圧接し外部導体の内径を円筒状部材の内径に等しく保持することを特記しているのに対し、第一引用例はその点に言及していない点で両者は相違しているとし、右相違点につき、円筒状部材の端部付近で外部導体の内径が変化しないように外部導体の圧接体に環状凸条を設け特に当該部分を圧接することが第二引用例(成立について争いのない甲第五号証の一)に示されているから、結局本件発明は第一、第二引用例の記載から当業者が容易に発明することができたものであるとしたものであつて、本件発明と第一引用例の前記一致点についての審決の認定は、これをそのまま是認することができるのみならず、第一引用例についての審決の前記誤認は、審決の本件発明に対する容易想到性についての全体的判断にはなんらの影響も及ぼしていないことが明らかである。なぜならば、審決は本件発明は特に円筒状部材の端部に近接した部分で外部導体の内径と円筒状部材の内径を等しく保持しているのに対し、第一引用例のものはそうでないことを前提として判断を進め、この点につき第二引用例を引いているのであるから、結局のところ、審決は、第一引用例は外部導体の内径と円筒状部材の内径が「ほぼ等しい」と誤つた記載をしながらも、結論部分では、本件発明におけるのとは異なつて、等しくないものと判断していることになるからである。
四 そこで、次に、本件発明が第一引用例と相違する点については第二引用例に記載があり、結局は本件発明は第一、第二引用例の記載から当業者が容易に発明し得たものであるとする審決の判断に誤りがあるかどうかについて考える。
原告は、第二引用例に示される外部導体の圧接は本件発明の場合におけるフエルールの圧着による問題の解決とは質的に全く異なるとし、第二引用例は、ガスケツトスリーブの審決でいう環状凸条部分により外部導体の内径が変化しないように意識して右凸条部分を設けたものではないと主張する。
第二引用例の右凸条部分が、それにより外部導体の内径が変化しないように意識して設けられたものであるかどうかは別として、第二引用例第2図(別紙第三図面)には外部導体(編組導体(18))の内径とその内径が等しい、本件発明における円筒状部材に相当する金環(管状茎部(40)と凸縁(41)よりなる)が記載され、右金環の管状茎部(40)の終端(42)は傾斜をなしていて、右終端部に外部導体がガスケツトスリーブ(37)の前記凸条部分により次に述べるように圧接されて当接しているものが示されている。原告は、ガスケツトスリーブの表面積の微少部分にすぎない第二引用例の凸条部分が円筒状部材(金環)の端部(42)付近で外部導体(編組導体(18))を圧接する力は極めて微量であるとし、金環端部(42)とこれに近接する外部導体(編組導体(18))との間には明らかに空間が存するから、右接続部においての特性インピーダンスの連続性を保つことはできないと主張する。しかしながら、第二引用例における外部導体(編組導体(18))の圧接というのは、次のようなものであると認められる。すなわち、第二引用例には、ガスケツトスリーブは弾性材料のものであり(第一頁右欄第一五、一六行)、ナツト(34)が締め込まれて殻(57)の内方に進むとガスケツトスリーブが軸方向に圧されるので、ガスケツトスリーブは半径方向に膨張して、殻(57)の内壁、円筒型スリーブ(38)、ケーブルの被覆(19)の外面等をかたく圧する旨の記載(第二頁左欄第三二行ないし第三七行)があり、これによれば、外部導体もガスケツトスリーブの膨張力により押圧されるものであることが明らかである。そうすると、凸条部分の押圧力は、それがガスケツトスリーブの表面積の微小部分であつても原告のいうほど極めて微量のものであるということはできず、また、図面上、第二引用例のものには、金環端部(42)とこれに近接する外部導体(編組導体(18))との間に明らかに空間が存するものと認めることもできない。仮に図面上空間が存するように見えるとしても、接続部のその他の部分において外部導体の内径と本件発明の円筒状部材に相当する金環の管状茎部(40)の内径が等しくされていることは図面上からも明らかであり、また、第二引用例も同軸ケーブルの接続部においてインピーダンス損失を最小にして高周波電流を伝送できるようにすることを目的としたものであり(第一頁左欄第一四、一五行)、更にまた同軸ケーブルの接続装置において、ケーブルの特性インピーダンスが部分的に変化しないように接続部における外部導体の内径と内部導体の外径の比を一定に保つようにすることは設計上当然考慮されるべき事項であることは原告もこれを認めるところであるから、右事実を総合すれば、第二引用例のものにおいても、接続部において外部導体の内径と内部導体の外径の比を一定に保つこと、すなわち、金環端部付近において空間を生じ、これによりその付近において外部導体の内径と内部導体の外径の比が異なるようになることを防ぐ考慮をしているものと推認することができる。
そうとすれば、円筒状部材の内径と外部導体の内径を等しくするための本件発明の構成は、右第二引用例の記載から、当業者が容易に想到し得たものというべきである。
原告は、第二引用例におけるガスケツトスリーブの一部が外部導体を半径方向に押圧するのは本件発明における「圧着」とは異なると主張する。しかし圧着の手段がいかなるものであるかについては本件発明の特許請求範囲中にはなんら特定されていないものである。原告は、「圧着」なる語は原告がはじめて使用しはじめて一般化されたものであり、本件発明における圧着は第二引用例における押圧とは全く異なるものであつて、その点でも本件発明は第二引用例の記載から容易に想到され得るようなものではないとの趣旨の主張をする。しかし、仮に「圧着」の語が原告主張のようなものであつたとしても、右「圧着」は本件明細書の記載によれば公知のものと認められるダイスを使用してしたもので、その圧着が通常のものとは異なる特別のものであると認めることはできない。
五 右のとおりであつて、原告主張の他の点については判断するを要せず、本件発明は第一、第二引用例の記載から当業者が容易に想到し得たものであるとした審決には違法の点はないから、その取消を求める原告の請求を理由なしとして棄却する。
〔編註〕 本件における特許発明の要旨は左のとおりである。
(1) 同軸ケーブルと、該ケーブルの外部導体の内径にほぼ等しい内径及び締付け力に耐える壁厚さを与えるに充分な外径を有する円筒状部材との間において前記ケーブルの外部導体の一部が前記部材上に配置されるような接続体であつて、前記円筒状部材の長さよりも大きい長さの展性材料製のフエルールを有し、該フエルールの第一部分が前記部材上に配置されたケーブルの外部導体の部分上に圧着されてケーブルの外部導体の前記部分がフエルールの第一部分と前記部材との間に把持され、フエルールの第二部分は前記部材の端部に近接して内方へ前記第一部分よりも強く圧着されるような接続体において、ケーブル(12)の外部導体(24)の内径(b)をフエルール(14)の第二部分(Ⅱ)の長さに亘つて部材(11)の内径に等しく保持することを特徴とする接続体。
(2) 同軸ケーブルの外部導体の端部分を拡開して該端部分を円筒状部材上に配置し、前記部材の端部を越えて前記拡開端部分からケーブルに沿つて延在する長さを有する展性材料製のフエルールを前記拡開端部分上に配設し、前記拡開端部分がフエルールと前記部材との間に把持されるように前記拡開端部分上においてフエルールの第一部分を変形し、前記部材の端部に近接してケーブルの外部導体を把持するために前記部材の端部に近接してフエルールの第二部分を変形することを含む同軸ケーブルの外部導体を円筒状部材に接続するための方法において、ケーブル(12)の外部導体(24)をもとの未拡開寸法(b)に保つようにフエルール(14)の第二部分(Ⅱ)を充分に変形することを特徴とする方法。